おじさんの戯言 猫付き

英語好き、猫好きのおじさんの戯言

Kさんについて(2)

「Kさんについて」の2回目です。

 英語学習不振に苦しむKさんにした「ものすごくシンプルな提案」とは、「教科書に戻る」ことです。当時採用していたのは三省堂のCrownです。教科書としてはハイレベルのものです。「教科書」は受験参考書から比較するととても地味ですが、各学年で最低限必要な知識がコンパクトに詰め込まれた最高の教本です。少なくても定期試験では一度は目を通したはずですので馴染みはあるはず。私はさらにその教科書の中身をさらに絞り、英文のみ、としました。各学年10レッスン、さらに各レッスンは4つのセクションに分かれています。1セクションは長くて1ページです。ですから1年で40ページ、2年分で80ページの英文をマスターすることを提案しました。短期集中、中央突破ですから、それ以外はすべてストップさせました。単語集も、熟語集もストップです。予備校も最低3か月は休むこととしました(保護者には本人を通して了解をとりました)。

 Kさんの挑戦が始まります。超特急での復習ですから、1年のLesson1から毎日量を決め、英文を和訳する。疑義のある部分だけ私に質問し、週末Lessonの復習をして翌週に備える、ということにしました。私は、それまで生徒に対して「個人指導」というものはしたことはありません。「個人指導」というのは他の生徒にとっては『依怙贔屓(えこひいき)』に映る可能性があるからです。補習や補講はしても「個人指導」はしませんでした。ただ、Kさんに対して教員になって初めて「個人指導」に近い指導をすることになるのです。

 真面目なKさんは翌日にさっそく質問にやってきました。ただ、Kさんの英文のとらえ方の「ずれ方」が私としては意外でした。英文を「言葉」として読んでいないのです。彼女の持ってきたノートの英文の 7~8か所に、"that"にマーカーがしてあって、これらの"that"をどうとらえていいか、途方にくれてしまった、というのです。言われていることが私の中で整理できませんでした。英文を「言葉」というより単語の集まりとしてとらえている印象でした。後から考えるに、中学時代、大量の英文のわかりそうな単語を拾って、自分なりの解釈をして何とかなったはずなのに、「一字一句正確に意味をとれ」と言われ、英文とどう向かっていいのか戸惑っているということなのだと思います。職員室の外に並べられた質問用の机でとにかく意味を一行一行確認することになりました。根気のいる作業です。Kさんにとっても、私にとっても。時には、なぜ私の言っていることが理解できないのか、自分でも情けなくなるらしく、黙ったまま涙を浮かべることもしばしば。時には、他の教員からなぜKさんが泣いているのか、心配で聞かれることもありました。英文中、ポイントとなる文法事項は反故紙(印刷ミスなどで使わないプリント)を1/4にしたものに手書きで、説明しながら渡していきました。「個人指導」の良し悪しではありません。予備校を休んでまで始めた挑戦ですから、私も責任上継続的な指導をせざるを得なくなりました。もちろん、通常の授業はきちんと受けること、一度説明したことは理解し、二度と聞き返さない、ことを条件にです。私の教えた内容がいつ授業で出てくるか、他流試合の気持ちで臨むようにはっぱを掛けました。その年度の授業担当者にも事情を話し、変化を見ていてほしいと助けを求めました。模擬テストだけでなく、それまでの定期テストでも結果は当然ボロボロでしたから。

 それから、Kさんの職員室への日参が朝の打合せ前、昼休み、放課後と始まります。私も大きなプロジェクトを抱えていた関係で忙しく会議に急ぐ途中歩きながら、質問に答えたこともありました。そんなKさんの様子に変化が見られるよういなったのは、1か月半ほど過ぎたころでした。

 どんな風に変化し始めたのか。その様子は次回「Kさんについて(3)」でお話しします。