今日は「原風景」のお話。
原風景とは?
原風景とは、その人がもっとも影響を受けた、意識の奥にある原初の風景のこと。幼いころに過ごした土地の風景だったり、多感な時期に見た景色だったりする。懐かしさを伴うことが多いが、必ずしもポジティヴな印象を持っているとは限らない。また、実存する風景でないこともある。視覚的な記憶だけでなく、聴覚、嗅覚の記憶である場合もある。(安達ロベルト氏 2024年3月6日 )
私は原風景という言葉を聞くと、「トンネルを出るとそこは雪国だった」川端康成の有名な『雪国』の冒頭を思い出します。『源氏物語』の「いづれの御時にか..」や『平家物語』の「祇園精舎の鐘の声...」と同じくらいに有名ですね。冒頭しか読んでいない人も多いと思いますが。
この文を読んだ時、どんな情景を心に思い浮かべますか?平成生まれの生徒に質問したことがあります。大多数の生徒は次のイメージを語りました。
汽車で暗いトンネルを抜けると、真っ白な銀世界...藁ぶきの民家があり...その家には囲炉裏があり炭の匂いがして何かぐつぐつ煮立っている...じいちゃん、ばあちゃんもいて家族団らん....少し離れたところに猫が丸くなって寝ている。外は雪が深々と降っており、時々人々の雪を踏みしめるキュ、キュとする音が聞こえる。水車も見える。トンネルを出た時に目に入る雪の白さは物理的な明暗以上の「何か」を感じる。
舞台は越後湯沢で毎年クリスマスの時期に雪が積もります。私もスキーで何回かお邪魔しましたが、関東では積雪は0なのに、このトンネルを抜けると真っ白な銀世界で感動したことを覚えています。多くの生徒は、実体験として上記の経験をしていないと言います。このような心に浮かぶ情景はどこからくるのでしょうか?
小さい頃から親や祖父母からの話からでしょうか?読んでもらった昔ばなしの絵本からの情景が心のどこかに残っているからなのでしょうか?不思議です。日本人が共通に持つ原風景の一つではないかと思います。欧米人の多くは「トンネルを出ると...」の文章(英文ですが)を読んでも日本人が感じるようには感じない、「ただ、トンネルを出ただけだ」と言う人が多いようです。文化の違いの奥深さを感じます。
インバウンドで沢山の観光客が京都や奈良でなく、地方の土地に訪れているとニュースで流れていました。もしかしたら、自分たちとは違う「原風景」を何か感じたいのかもしれません。
日本らしさのルーツはここら辺にヒントがあるのでは...日本人のさまざまな原風景をたどっていくと、日本人の「どこから来たのか」がわかるような気がします。